20歳から始めた読書感想文

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孤独のグルメ1話 「江東区門前仲町の焼き鳥と焼き飯」

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孤独のグルメSeason1 第1話」の小説アレンジです。

 

 

 

 何年ぶりだ? 学生の時に深川祭で来て以来だな。

 

 江東区門前仲町。裏路地には俺好みの昔ながらの飲み屋街が多い町だ。

 こういう、昔ながらの風景っていいよな。門前仲町にはそういうのがまだ残っている。

 そんな店を端目にしつつ10分ほど歩くと、依頼主と待ち合わせしてる店に辿り着いた。

店の名前は……「美味しいコーヒーと手作りごはん」??

 

 ……。

 

 イメージが嫌なぶつかり方だ。コーヒーじゃ、ご飯が進まないじゃないか。

 ご飯は俺にとっては重要な食べ物だ。美味しいおかずを、ご飯と一緒に食べるのが俺の幸せだ。

 だが、まだご飯には早い。とりあえずコーヒーでも飲んで待とうか。

 

 店の中は、いかにも最近といった感じの、上品な作りだった。ベージュがかった白壁と木のテーブルに、黄色電球の明かりが降り注いでいる。

 

 俺の職業は輸入雑貨の貿易商。

 海外の雑貨店で仕入れた雑貨を、日本の人たちに販売する仕事だ。大抵の場合、店のインテリア、食器、テーブルなんかだ。時々個人的に欲しがる人もいる。

 今回はうまく売れるだろうか。個人商売というのは、一件一件が本当に勝負だ。一つ伸ばせばその分自分の給料が減ってしまう。

 だが……そのかわり、好きなときに、好きな場所で、誰にも邪魔されず、気を使わずに飯を食べられる。俺はそういう生活が好きで、この仕事を続けている。

 さて、やりやすい客だといいのだが……

 

 

 ◆◇◆◇

 

「竹山さんに紹介されてお宅のホームページ拝見して、すっごく趣味がよろしくていらして。ティーカップを揃えようと思ったんですけどなかなか気にいったものが見つからなくてそんな時だったからもう、うれしくてつい甘えちゃって」

 

 これはまずい。一番やりにくいタイプだ。よく喋るおばちゃん。

 

「普通はネット注文なんでしょうけど、わざわざ持ってきて下さって」

「いえ、ちょうど近くを」

「それにしてもほんっとにいい――」

 

 人の話を聞かずに、一方的に捲し立てるタイプ。

 ちなみに次にやりにくいのは、欲しい商品のイメージが漠然としすぎているタイプだ。

 

「いろいろと苦労もおありなんでしょう?」

 

 今の状態がまさにそうだ。話を聞いてこれだけ疲れたのは初めてだ。

 まあ、売れたからいいけど。

 

 次に、寄る予定だったアンティークショップへ行く。アーリーアメリカンテイスト。西部開拓時代の味が残る店だ。

 俺も店を一件ぐらい開いてみてもいいと思って参考に見に来てみた。だが、見ているうちに、なんだか違う気がしてきた。

 それに、俺には店の主は似合わない。結婚同様、店なんて下手なものを持つと、守るものが多すぎて人生が重たくなる。男は基本、体一つでいたい。

 

それにしてもなんだか……

腹が……

減った……

 

――よし店を探そう。

 

 永代通りを渡った反対側に、隅田川の主流があるはずだ。俺の経験によれば、昔ながらの店を探したければ、川の側を攻めろ、だ。そう思うと早足になってしまう。

 隅田川に近づくと、狭い路地に、看板と電線が所狭しと並んでいる。飲み屋小路だ。やっぱり、こっちであたり。さて、何を食おうか。

 綺麗な木の目が通った引き戸、ほどよく崩した看板の文字の店がずらり、だ。どこもかしこも美味そうに思える。でも、ここで焦りは禁物だ。昼は鯖だったから、とりあえず魚系は外して……

 

 俺の腹は今、何腹なんだ?

 

 すると、ある店の暖簾と赤提灯が目に飛び込んできた。やきとり……そうだ、やきとりだ! しばらく食べてない。それに、ご飯ものも、きっとあるだろう。

 期待を膨らませて暖簾をくぐると、店の中の暖かな雰囲気に包まれる。なんというか、自分家って感じがする。ごちゃごちゃした感じとか、くすんだ机とか壁とか。うん、やはりこの店で正解だ。

 

「飲み物はなにになさいますか?」

 

 烏龍茶で、と答えると、なぜか店主は店の外へ行ってしまった。家の外に冷蔵庫があるのだろうか?

 しばらくすると、店主が戻ってきた。

 

「うちの店、外にも冷蔵庫があるんですよ。となりの酒屋さんですけど」

 

 なるほど。そういうのも昔ながらの感じがしていいな。

 さて、食うぞ。まずは焼き鳥でいってみよう。

 

「焼き鳥は何があるんですか?」

ねぎま(胸,もも)、軟骨、かわ、砂肝(食べ物をすりつぶす)、手羽先、レバー、つくね(肉団子)……の7種類。全部塩です」

「じゃ、全部ください」

 

 

焼き鳥

 

 

 小気味良い焼ける音がした後、焼き鳥が運ばれてきた。焼き鳥を食べるのも久しぶりだな。うん、うまい。塩味がほどよく効いてる。これでご飯が食べたくなるな。なんで焼き鳥定食がないんだろう。

 うまい。ほんとうに旨い。焼き鳥って、こんなにうまいものだっけ。なんだろうこの旨さは。なんだか、笑えてくるな。

 

……おいおい、あっという間に6本食べてしまったぞ。

……名残惜しいが、最後のつくねも食べる。うん、やはりうまい。

 

 次に頼んだのはホッケスティック。スッキリとしていてなんともスタイルが良い。和風なのか洋風なのかわからんがうまい。

 そして信玄袋。巾着状の油揚げに、オクラとホタテがはいっている。これが福袋なら大当たりだ。これだよこれ、今日はついてるな。

 

 ここで隣の客が「つくねとピーマン」を注文。ピーマンの中につくねを詰めて食べている。実にうまそうな顔をしている。

 ……。

 

「すいません。つくね2本とピーマン下さい」

 

 そんな美味しそうに食べられたら、行くしかない。

 早速出てくる。口の中がどうなるのか、早く試してみたい。はやる気持ちのまま、ピーマンとつくねを口に入れる。

 ……苦いっ! けど、新しい。

 ……苦い、でもうまい。

 苦旨い。

 

 さあて、そろそろご飯が欲しいな。やはりご飯がないとしまらない。

 

「すいませんご飯下さい」

「はい、焼き飯ですね」

「……焼き飯? じゃ、それ下さい」

 

 チャーハンじゃなくて焼き飯か。どんなんだろう?

 すると、しらす梅肉が入った焼き飯が現れる。パラっとかかったシソの葉がいい。

 焼き飯に梅干しかぁ……。発想がなかった。これいい、これいいぞ。一気に箸が進む。気づけば、焼き飯の器は空だった。

 

 今日もいいものを食べれた。幸せだ。

 でも……今度はたれで白い飯食いたいなぁ。そんなことを思いつつ、俺は今日食べた焼き鳥の味を思い出していた。