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回転木馬のデッド・ヒート 感想

回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)
回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)

あらすじ

他人から聞いた話を小説にした短編集。

表題の「回転木馬のデッド・ヒート」は、小説ではなく、前書きとして登場する。

以下、要約をのせます。

他人の話を聞けば聞くほど、そしてその話をとおして人々の生をかいま見れば見るほど、我々はある種の無力感に捉えられていくことになる。我々はどこにも行けないというのがこの無力感の本質だ。

我々は我々自身をはめこむことのできる我々の人生という運行システムを所有しているが、そのシステムは同時にまた我々自身をも規定している。

それはメリー・ゴーラウンドによく似ている。それは定まった場所を定まった速度で巡回しているだけのことなのだ。どこにも行かないし、降りることも乗りかえることもできない。誰をも抜かないし、誰にも抜かれない。

しかしそれでも我々はそんな回転木馬の上で仮想の敵に向けて熾烈なデッド・ヒートをくりひろげているように見える

我々は自分で人生を決めたはずが、あるとき、別の人生を選べなくなっていることに気づく。

いつのまにか、人生に自分自身が操られている。

そして、目的地を見失ったまま、どこかへ向かって必死に走り続けている。

それは性格にもいえることだ。

我々は、別の性格を選ぶことはできないと考えている。

しかし、性格とは『自分で選んだ個々の行動の総称』である。

物事に真剣に取り組めば「真面目な性格」になるし、

他人の世話をたくさんすれば「面倒見の良い性格」になる。

それなのに我々は『性格に自分自身が操られている』ように感じる。

そして、人生のある地点を境にして、人は何かに操られるかのように悪い方へと向かっていく。

表現技巧

全作に共通するのは 「うまくいっていたことが、突然うまくいかなくなる」 ということだ。

 「うまくいっていたことが、突然うまくいかなくなる」ことが、どのように書かれているのか説明する。

母にわかることは、そのレーダーホーゼンをはいた男をじっと見ているうちに父親に対する耐え難いほどの嫌悪感が体の芯から泡のように湧きおこってきたということだけなの。

正直に言って、実際にこんな風にはっきりと感じたのは僕にとってははじめてなんだよ。つまり、自分の中に名状しがたい把握不能の何かがひそんでいることを感じたのはさ。

彼女はそういう感情的な訓練を一度も受けたことがなかった

理由なく始まったものは理由なく終わる。逆もまた真なり。

どうしてそんなことを言ってしまったのか、自分でも理解できなかった。でもその言葉がごく自然に口をついて出てしまったのだ。

僕にはもう彼女の生活を覗かないでいることができなくなっていた。

ただ僕はある日突然、無性にナイフというものが欲しくなったんです。

「なぜそうしたのかわからない」「○○しかできなかった」など、何かの力に操られたことが伺える。

感想、批評

これは、成長するための小説だと思う。

成長するには、うまくいかなかったことを分析し、対策を立てなくてはならない。

しかし世の中には、どうあっても分析できない上に、直視を迫る問題がある。

そういった問題に立ち向かう際に必要なのが、この物語のように、誰かに語ることだ。

分析できない事柄を「何かが原因で分析できない」と語ることで、はじめて問題を直視し、受け入れることができる。